高級レストラン | libre

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高級レストラン

  • 2006/05/31 17:52

FF7/レノネームレス夢


 少し細かめのスパンコールが、照明を反射して輝いた。
 華美なフォーマルドレスに包まれる体は、柔らかなボディラインをぴったりと醸しており、まるで黄金色の鱗に包まれる人魚さながらに眩い。
 細い肩紐を残して何も纏わない肩。太腿の中間ほどから走るスリットから覗く足。ふわりとエアーを入れた髪形。ドレスの胸元はVの字に開かれており、女性特有の乳房が軽率さを思わせぬ程度に強調されている。
 楚然とした曲線美を鮮やかに曝け出しながら、カツン、カツンと歩みを寄せる女性を目敏く見つけて、レノがひゅうと小さな口笛を吹いた。

「ご婦人、本日はどちらのパーティーへ?」

 からかい混じりの声に反応して、きめ細かなラメ入りアイカラーに彩られる瞼が一旦閉じる。ダークブラウンのアイラインで縁取られ、その艶やかさと眼力を一層のものとしている双眸が、聞こえよがしな嘆息を吐くとともに不機嫌に開かれた。
 黒のマスカラは、睫毛の描く弧を太く上向きにしている。見事に飾られた両眼が、軽口を叩く赤毛の男を睨んだ。好き好んで着ているわけではないと、その視線が強く物語っている。

 彼女は、通称タークスと呼ばれる総務部調査課の一人である。
 通常であれば、このタークス本部の内外問わず、勤務中は黒に程近い濃紺のパンツスーツで身を固めている。しかし、今夜与えられた任務は、重役を極秘に護衛すること。三ツ星レストランと名高い高級料理店に、決してタークスと悟られぬ格好で行かなくてはならない。
 タークスは綺麗ではない仕事ばかりを請負う課であると言うのに、迅速に対応し難い服装をさせられるとは、実に遺憾なことだった。しかしながら、プロフェッショナルはどのような状況でも仕事を勤め上げるもの、というツォンの言葉に反論の余地はなかったのだ。
 結果として、彼女は豪華なドレスを無理矢理に着させられ、かかとの高いヒールを履かせられ、極め付けに小銃一つしか入らない小さなバッグを持たせられることとなった。
 動き難いことこの上なく、不審者と対峙して即座に動けるかどうか甚だ疑問だ。

「ちょっとレノ、茶化さないでよ」
「冗談冗談、と。けど、よーく似合ってるぜ」

 そのような経緯から、プロフェッショナルはすこぶる不機嫌であった。
 ただ、それに尻込みするほどレノの神経はか細くもなく、幼さと色気の混じる独特の笑みを浮かべて彼女の傍へ寄った。ヘリポートまでのエスコートを仰せ付かった彼が、平を上へ向けた手を差し出す。
 さすがの女も、褒められると悪い心地はしないらしい。ウインクと共に投げられた言葉に、睨みを効かせていた瞳を緩めて柔らかく掌を重ねた。
 爪にベージュを纏う手をやんわりと握り、本部を出たレノは率先して廊下を歩く。無機質な廊下に響くヒールの乾いた音へ、暫く黙って耳を傾けていたかと思うと、顔だけを彼女へ向けて口元を歪める。

「次の非番、デートしねーか? そのヒール、俺のために履いて来てくれよ、と」
「……ピンヒール、好きだったの?」

 着崩した制服や、その立ち姿からして独特の美学を誇る彼のことだ。同僚になってからの付き合いも長く、女性に対しても様々なこだわりを持っていることは知っていた。しかし、ピンヒールを好むということは初耳で、女は意外そうに視線を遣る。
 窓硝子の向こうで、夜を迎えようとする空が赤く燃えている。その手前で、やはり赤々と燃ゆるレノの髪が、頷く拍子にさらりと揺れ動いた。

「そ。まあ、フェチシズムってやつだな、と」
「へえ……もしかして、案外マゾヒストだったりして?」
「いーや、むしろ逆」

 革靴とヒールの奏でる足音が途切れ、二人の間に静寂が訪れる。
 静けさが支配する空間で、レノは繋いだ手を軽く引き寄せ、彼女との距離をぐんと近いものにした。

「ヒールに踏まれたいんじゃなくて、ヒールを脱がす瞬間が、堪らなくゾクゾクするってこと」
「理解できない……」

 呆れた風情で呟く彼女の耳が、不意に熱い感触を覚えた。それがレノの不敵に歪む唇だと理解した、刹那。

「なあ、脱がされる悦びなら、レノ様が懇切丁寧に教えてやるぞ、っと」

 甘く――いっそ意識を赤に染めてしまいそうなほど妖美な声が、女の脳を心ごと震わせていく。
 黄金色のスパンコールの下、透明感のある肌が粟立っていることを分かっていて、レノは無防備な耳朶に舌を這わせた。

「……変態」

 一瞬の快感を鋭敏に感じ取ったものの、辛うじて声を殺した女は伏し目がちにレノの体を押し返す。

「そんな俺も好きだろ?」

 飄々と悪戯な微笑で碧眼を細めたレノは先を行き、ヘリポートへ続く扉を開いて振り返った。彼女はベージュのグロスにぽってり膨らむ唇を尖らせ、「馬鹿レノ」と声を出さずに動かす。
 喉の奥でくぐもった笑い声を零している様子から察するに、熱くなった頬は施した化粧でも隠し切れていないのかもしれない。そう思い当たった女は、ブラウンのチークを乗せたはずの頬を一層の朱色に染めたまま、彼の顔も見ずにヘリに乗り込んだ。

 任務から帰ってきたら、真っ先にこのヒールで足を踏んでやろうと心に決めて。

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