三寒四温、いつでもあなたと
- 2006/05/31 18:19
FF7/ルーファウスネームレス夢
今日の青天は、一際高い。
雲など無いにも関わらず、みぞれ紛いの雪が陽光を纏いながらちらついている。半ば融けかけた結晶が降るには、少し不釣合いな青空を仰いで、私は煌く世界に瞳を細めた。これだけ穏やかな太陽の光が注いでいるのだから、積雪に期待などは出来なさそうだ。
積もりもせず、ただ悪戯に寒さを思わせるだけの天候。それでも、ほんのりと胸に幸せな気分を与えられるのは、雪独特のものだと思う。
「風邪を引くぞ」
世界中のあちらこちらに点在するらしい神羅名義の別荘は、さすがにどの部屋も大きくて広い。その中でも格段に気に入っているバルコニーで、呆けたように空を見上げていた私へ、ルーファウスの低くて痺れる声が掛かる。
振り向いて見ると、いつも変わらない冷然とした表情がそこにあった。伊達男の嫌いがある彼は、いつでも何となく不機嫌そうな口元で表情を作っている。だけどそれは体裁上のものだけで、心を許している者のみが気付くことのできる優しさがあるのだと、私は分かっているつもりだ。だから、その顔が心底の不機嫌でないことはすぐに分かった。
太陽の下、雪の輝く中で見るルーファウスは、いつにも増して凄艶に見えた。
大事に育てられてきたのだろう、通常の男性よりも肌は白い。くすむことを知らないゴールドとプラチナの間を取ったようなブロンドヘアー。着る人を確実に選ぶ純白のスーツも、彼の前では平伏してしまう。
物事の先を読み取ることができる聡明な眼差しは青く、それとなりに狡猾なことを考える頭脳を感じさせないほどに澄んでいる。
私は、ルーファウスのその瞳が大好きだった。まるで頭上で広がる青空のように、時に冷たく、時に優しく私を包み込んでくれる。
「ん、分かってる」
思えば彼は、この空のようであり、この雪に似ている気がする。
冷たくて、底冷えするほどの寒さを過ぎらせるのに、とても優しくて綺麗で――うっとりするほど、温かい。
「分かっていないだろう。現に、こんなにも体が冷えている」
不遜な顔のままで近寄ったルーファウスが、私の体を自然な動作で後ろから抱き締めた。
素直でない優しさも、空から真っ直ぐに舞い降りてこない雪のよう。
だからこそ無邪気に追い掛けて捕まえたくなる、どこまでも惹き付けられる、何よりも愛おしく思える。
「ルーファウスこそ……いつから外にいたの?」
「今、部屋から出てきたばかりだ」
「嘘ばっかり、私と同じくらいに体が冷えてるじゃない」
この人はいつでも優しさを与えることを隠したがるし、優しくない振りをしているのを好む。けれど、それに気付かないほど彼へ抱く想いは浅くない。事実を突き付けると、オフの日には無造作に下ろされている金色の髪が、今度ばかりは不機嫌に揺れた。
可笑しくてくすくすと笑った私の鼻先に、ひとひらの雪が乗った。
ふと見上げると、先程までみぞれ紛いで半透明だった雪が、少し白みを増したような気がする。背中の温もりのお陰で、寒くなったことを感じなかったのかもしれない。
「ルーファウス様、雪はお好き?」
肌を突き刺す空気が、頬の感覚を奪っていくのが分かる。それでも室内に戻ろうとは思わず、ルーファウスに背を預けたままで問い掛けた。
何の意図も無い、ただ浮かんだままの問い。現実主義者である彼にとれば、どうでもいい天候に関するどうでもいい質問だと思う。だけど、その知性に溢れる頭は何の迷いも無く答えを出した。
「そうだな……お前が好きだと言うのなら、好きになってもいいかもしれん」
低く零れた囁きに、厳冬の空気が白く染まっていく。緩く抱き締められた腕の中でそっと身を翻すと、眼前にはこの世で一番美しいものが存在していた。
冬という季節も、雪という天の贈り物も、このルーファウスという人間も、どこまでもどこまでも耽美だ。あまりの眩さに、心まで白く染めてしまいそうなほど麗しい。
「じゃあ、世の中のもっと色々なことを好きになって」
自然と微笑みが洩れる表情で、透き通るルーファウスの瞳を見つめると、瞬きを繰り返す碧眼が応じるように見つめ返してくれる。間近で揺れる美しい金糸を、ほっそりとして面長の輪郭を、きめ細かい質の肌を、すうっと通る鼻筋を。その一つ一つを、私はしっかりと眺めた。
続く言葉を彼が黙して待てば、脈動繰り返す心音と控えめな冬の音色だけが、凛々しく締まる空気を震わせている。
まるでこの冬の世界には、私と貴方の二人きりになったようで、嬉しさと寂しさを思い起こさせた。
「私はこの世界が好きよ。貴方のいる、この世界が好き」
私の好きになったものを好きになってくれるのなら、私は愚かしいほどに自分を愛すのだろう。
それくらいに愛しく思っているのだと、どうか知ってほしい。
ささやかな、それでいて切実な願いを込めて呟く――何より貴方が好きなのだと。
一瞬だけ両眼を開いたルーファウスは、すぐさま気障な動きで頭を微かに動かした。そうすることで、秀麗でしっかりとした眉毛や黒くて長い睫毛にかかる前髪を払う。
「……分かっている、それくらいのこと」
心の動揺や、多少なりは感じてくれたはずの喜びなど、まるで無かったような振る舞いを見せた後、さも当然たる平淡な声音を紡いだ。
気付いてないのだと、思う。
私を優しく抱き締めてくれている腕の力が、ほんの少しだけ強くなったこと。そして――澄み渡る空色の中、深海のように深い蒼をたたえる黒目が広くなって、貴方の瞳が一段と優しいものになったことを。
「例えばこの世界が無くなったとしても、私を想え。いいな」
この人は、そういう人なのだ。
“ありがとう”の言葉も、“愛している”の言葉も言わない。弱さや優しさを見せることを極端に嫌い、とても自尊心の強い倣岸な人。
そう、それこそまるで。
泥がついて汚れるのを嫌う、あの純白を誇る気高き白雪のよう。
「ね、私がプレジデントのおじ様を大好きになったら、ルーファウスも好きになる?」
「……それだけは無理な注文だな。悪いことは言わん、潔く諦めろ」